スポンサーサイト

--/--/-- -- --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告

命の値段

2011/08/18 Thu 01:42

一回の投与で8万ドル(800万円くらい。いや、今の円高だと700万円くらい)かかる薬があるのだと言う。
末期がんの治療薬だ。化学療法でも生物製剤でも効かなくなった患者に向けて使うんだとかなんだとか、医者になった大学時代からの友人が言っていた。

「1回8万ドル?!そこまでかけて命を救う必要があるの?!」と思わず不謹慎にも叫んでしまった。
「うん、、、命は、最終的には救われないんだ。末期がんは治せないから。余命が延びるかどうかも定かでないんだけど、ほかの薬が効かない時は使ってみるしかないんだよね。」と友人。
ヘルスケアの世界って皮肉だ、と改めて思った。

私はこの夏、Proteus Biomedicalというバイオテックのスタートアップで働いている。バイオテックといっても創薬をやっている会社ではない。薬を飲んだかどうかをトラッキングしてくれるマイクロチップを作っているのだ(詳しい会社の説明はこちら)。
会社で担当しているのは、結核治療のマーケットに向けたビジネス開発。既に先進国ではほとんど見かけなくなったが、実はいまだに世界の3分の1の人口(約20億人)が結核菌に感染しており、毎年1千万人弱が発症している。マラリア・エイズと並んで三大感染症の一つだ。
結核は、何種類かの抗生物質を6ヶ月間飲み続けることで治療する。薬を飲み始めると2ヶ月くらいで自覚症状がとれてくる。が、ここで薬を飲むのをやめると、体内の結核菌が完全に駆除されず、逆に、抗生物質に耐性を持った耐性結核菌になってしまって、治療が非常にやっかいになる。また、治療費も数百倍に跳ね上がる。
なので、必ず患者に薬を飲ませ続けるために、WHOでは、「Directly Observed Therapy, Shortcourse (DOTS) - 直接監視下短期化学療法」なる治療方法を定めている。なんだか名前はややこしいが、中身は極めて原始的: 患者に毎日病院に通ってもらって、医師が見ている前で薬を飲んでもらうというやり方だ。
これが、WHOが批准するゴールデンスタンダードな治療法であるからして、世界中の政府は、必死になってDOTSの普及を図ろうとしている。先進国でやろうとしても大変そうだが、これがクリニックの数が少なく、道路などインフラも整ってない途上国だとなおさら大変、というかほぼ実行不可能な地域も多い。(そして、当然ながら結核はそういう地域ほど発生率が高い。)コストも無駄に高い。
途上国では結核の治療は診断から治療まで一人あたり200ドルくらいかかるのだが、このうち薬代はたったの20ドル。コストの大半は、DOTSにかかるヘルスワーカー・医者の人件費だ。
このDOTSを、上述のマイクロチップを使って、このプロセスをWirelessly observed therapy(WOT)、つまり携帯電話の通信を使った遠隔モニタリングで置き換えられないか、そのためのビジネスプランを考えられないか、というのが私の夏のお題。

初めてこの話を聞いたの興奮は忘れまい。WOTを使った場合の治療コストは、従来のDOTSの数分の一。患者にとっても医療従事者にとっても、感染症を管理する政府の担当者にとっても、圧倒的に負担が楽になる。
採算が合わずチャリティー同然のBOPビジネスの例ばかりを見てきた人間としては、こんなWin-win-winな奇跡なモデルがあったんだ、と心の底から感動した。

そうして、ビジネス開発を検討し始めて2ヶ月。
・・・こんなに素晴らしい技術でも、いざ導入を検討すると、難しいのだ。
たとえば、政府へのもろもろの申請。体内に入る医療機器の分類になるので、治験やら認可申請やらを国ごとに行わなければならない。
たとえば、製品のテクニカルサポート。もしもシグナルをキャッチするセンサーが壊れたら誰が修理にいくのか?使い方がわからない人の相談窓口は?テクニカルサポートを考え始めたらとたんに「遠隔医療」が一番力を発揮できるはずの遠隔地に果たして進出できるのかどうか心配になり始める。
たとえば、製品の販売と流通。薬と一緒に売られるので、医薬品と同じ流通ルートを検討するのだが、国によっては流通業者が分散されすぎていて地方ごとに探さなければいけなかったり、そもそも流通業者がなかったり、海外企業は入れたがらなかったり、とにかくややこしい。
販売もややこしい。中央政府が一括して買ってくれると良いのだが、国によっては地方政府やひどい場合は病院ごとに入札をして買う製品を決めている。そうすると、その度に入札業者を雇って、入札に勝たないといけない。
うんぬん。うんぬん。。。

・・・こういう手間につぐ手間が重なると、やっぱり優先せざるを得ないのだ。
これから伸びそうな新興国を。
人口が多い国=市場が大きい国を。
お金を払ってくれそうな消費者を。
このマイクロチップをほかの疾患領域にも展開してくれそうな病院を。

政治情勢が不安定なアフリカの小国の田舎の道路が無い地域は、どうしても優先順位の上位には上がってこないのだ。たとえ、そういう地域で一番この手の技術が活躍できるとしても。

なんとも皮肉だ。

前述の医者の友人、本気で怒りに声を震わせながらこんな話もしてくれた。
アメリカのICU(集中治療室)を運用するのに、1日1万ドル(100万円)かかるそうだ。(そのコストの高さもびっくりだ。)一般の人が入っている私立保険だとそんなわけでICUに入れる日数の上限が決まっていてそれを超えると個人負担になる。
でも、Medicareという高齢者をカバーしている公的保険ではその制約が無いらしい。
だから、人によっては1年も2年もICUに入り続けている。植物状態になりながら。命が数ヶ月延びることはあっても治ることは無い状態で。
ICUの日数が延びても、家族には治療をやめてもらうお願いをなかなかできない。当然医師もやめる判断はできない。2年間ICUに入ったら、薬などの治療費を入れなくても、ICUにいる、ただそれだけで、7億円以上かかるというのに。

この事態を少しでも打開すべく、アメリカの一連のヘルスケア改革で、生前の患者にICUに入りたいかどうかを選択してもらう制度を導入しようとしたそうだ。が、それは、反対する共和党から「Death Panel」と名前をつけられ、まるで医者が患者の余命を決める権利を持てるかのように報道され、世論の反対にあって瞬く間に国会から消えた。ネーミングで誤解を呼んで国会を通らないなんて、まるでどこかの国で聞いたような話だ。

「ただ、患者の意志を尊重したいだけなのに。彼らの声を前もって聞いておきたいだけなのに。医者が患者を早く死なせる判断を自分の力でできるはずがないじゃない。」と友人は声を震わせながら言っていた。

人の平均寿命と一人当たり平均医療費をプロットしたグラフを見つけた。
healthcare

おおざっぱに言って、平均医療費が750ドルを超えたあたりからは医療費と平均寿命の相関はないと言って良い。
誰がどう見たって、グラフの左端にひしめく国にお金を入れた方が効果が高そうなのに、ヘルスケア業界は引き続きグラフの右端にいるアメリカを中心に回る。そんなアメリカでは、今日も国民の税金で1日1万ドルのICUが誰かに使われている。

人の命に値段はないと言う。本当は左端の国に必要なものを届けたいのにな、と思う。
難しい。ああ、難しい。




スポンサーサイト
未分類 | コメント(2) | トラックバック(0)
コメント
No title
自分の手元にツールがあるなら、それを使って今困っている人を助けたい、というのが人情なんですよね(なかなかそのパッション一筋では途上国行政の政治過程を突き抜けていけない、ところが難しい・・・)。

保健・医療分野は特に国家(あるいは自治体)の制度と市場が表裏(予防は比較的取っつきやすいですが)の関係になっていて、医者はどこでも影響力があったりするので、規模の大きな新興市場で、指導力のあるリーダーを巻き込んでとにかく導入をして、そののりしろで過疎地で成功例をひとつでも作ると、他の国に売り込みやすくなるのでしょうけど。

長期戦覚悟の取組はその間の機会費用を考えると、割り切れないものが残ります(そこを乗り越えてこその職業人だと言う人もいるかもしれませんが)。

小島嶼国で仕事をしていると特にスケーラビリティのところでいろんなものが没になるので、問題の所在が違うのですが、共感する部分があったので書き込みを残させていただきました。

Re: No title
コメントありがとうございます!そう、おっしゃる通り、結局つまずくのは「機会コスト」のところなんですよね。良い技術はひくてあまたで、いくらコストがあうからといって、それが優先されるとは限らない。難しいな、と思います。だから、イノベーションのジレンマの本にあるように、新規プロジェクトとかは切り離して子会社化してやったほうがうまくいったりするのかな、と思います。背水の陣って人を動かすと思います(笑)

管理者のみに表示

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。